人気ブログランキング | 話題のタグを見る
角田光代『いつも旅のなか』
角田光代著『いつも旅のなか』。
もー、これ読んだらぜーったいに旅に出たくなる。
タイトルはもとより、「仕事も名前も年齢も、なんにも持っていない自分に会いにゆく」というキャッチコピーも、わたしには超ストライクゾーンだ。

『対岸の彼女』を読んだ時から思っていたが、角田さんの文章は気取らずとても読みやすい。でもそうやって油断してると急に出てくる非常に鋭い表現にびっくりさせられたりする。作家だから当たり前か。
この本も、当然楽しいことばっかり書いてあるわけじゃなく、むしろトラブルの方が多かったりする。
でも、それを読んでると無性に旅に出たくなるんだから、いかに角田さんの文章が魅力的かということだ。

あー、そうだったそうだった。
旅の醍醐味ってこうだった。
そう思わせてくれるエピソードが満載だ。
かつて中学1年の美術の時間に作った絵皿に、「旅」という文字を彫刻刀で彫ったわたしとしては、『いつも旅のなか』なんていうタイトルを見せられて、読まないでいられるわけがない。

「仕事も名前も年齢も、なんにも持っていない自分に会いにゆく」なんて、なんて素敵なんだろう。
わたしがひとりで海外に行ってみたのも、そういったいわゆる属性から解き放たれたいという深層心理がきっと、どっかにあったに違いない。
日本というひとつの国にどっぷりと漬かってしまって見えなくなった、素の自分に会いたかったのかも知れない。

本の中には、モロッコ、ロシア、オーストラリア、タイ、上海、韓国…など、角田さんが行ったいろんな国のエピソードが書かれている。
すごい。行きまくってる。
その中で、印象に残ったのが、キューバ。
町のダンスショーで、ふつうの人々と同じような席に座っていた初老の婦人が乞われて踊り出し、なにかと思って見ていると、そのダンスが息をのむほど美しい…。
実は彼女は国民的ダンサーだったのだが、そんなところに上りつめた人がフツーの人とおんなじ席に座ってることが、わたしには超カッコよく映る。
特別な才能があったり、お金持ちだったりする人が、特別な生活をするのは自由だけど、そういうのがわたしにはなんだかダサく、逆にビンボーくさく思えるのだ。
まぁ、ひがみややっかみかも知れないけど。

角田さんは、
「何を成していようがいまいが、わたしたちは日常を生きるごくありきたりなひとりである。平等──この国に染み渡ったその大前提こそ、キューバという社会主義国の完璧な理想が生み出した、もっとも美しい何かなのではないか」
と書いている。

平等なんてありっこない。
サザンが「ピースとハイライト」で歌ってるように、絵空事やお伽噺かも知れない。
でも、だからこそ美しいんだろうと思う。

今は昔のように気軽に旅はできないが、わたしも心は「いつも旅のなか」にあるつもり。
これからも、ひとところにどっかと腰を下ろすことなく、不思議なものや変わったもの、面白いものにいつもきょろきょろするような落ち着きのない人でいたい。
by adukot_u3 | 2013-09-05 23:50 | 書籍
<< 藤圭子『聞いて下さい私の人生』 村上龍『だまされないために、わ... >>