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ナゾの女 恵子さん
実家に戻って来て2ヶ月とちょっと。
来てから1ヶ月ぐらいまでの記憶があんまりない。
でも、記憶がないという意識があると言うことは、ほんの少し落ち着いて来たということか。
当初の激痛に近い腰痛も、ストレスからくるじんましんもだいぶ治ったしな。

少し落ち着いてくると、不思議なことを思い出すようになる。
今から15年ほど前、西新宿のとある会社に籍を置いていたわたしは一時期、金曜の夜になると毎週ひとりで飲みに行き、ときには朝まで飲んだくれていた。

新宿三丁目の雑居ビルにある、カウンターと二人がけのテーブルが2つの小さなそのバーは、ママが、マスターなんだかママなんだかいまいちはっきりしないことと、お隣が超エロいボンデージ用品店なことを除けば、別段これと言って珍しいもののない店だった。
なんでそんな店に行くようになったかは思い出せない。
でも、毎週のように行ってたということは、多少は居心地が良かったんだろう。

その店に、わたしと同じく、毎週金曜の夜になると現れる、恵子さんという妙齢のナゾの女性がいた。
あちらからしてみたら、高いお金払って朝まで飲んだくれてるわたしだって十分にナゾの女だろうが。
なんでわたしが恵子さんをナゾの女と名づけたかと言うと、カラオケで歌うのは決まって石川さゆりさんの「飢餓海峡」で、それがバツグンに上手い。
そんなに上手いなら、他にも色々歌いそうなものなのに、なぜか頑なに「飢餓海峡」しか歌わない。
そこがナゾなのだ。

「あんたに逢いたくなったなら(ちり紙に包んで取っておいたあんたの足の爪を)ほっぺにチクチク刺してみる」そんな変態チックでエロティックな歌詞が、いまごろになってなぜか懐かしく思い出される。

一度だけ、偶然にも恵子さんが会社の部下たちとお店で鉢合わせしたところに遭遇したことがある。
そのときの部下の対応から察するに、たぶん昼間は仕事のできる有能な女性なんだろう。
「ちり紙につつんだ男の足の爪を頬にチクチク刺す」歌をヘベレケで歌ってる上司を見て、部下たちはド肝を抜かれたに違いない。

”四十路半ばの冬が過ぎ セピア色した雨が降る”
当時まだ三十台前半だったわたしは、都はるみさんの「小樽運河」という歌が好きで、四十路半ばになったらぜひ歌ってみたいもんだと思っていた。
当時、恵子さんに歌ってくれと頼んでみたが、とうとう聞き入れてはもらえなかった。
わたしは「小樽運河」を歌わないまま、とうに四十路半ばも過ぎてしまった。


そのバーは、それから間もなく閉店した。
恵子さんはまだ、どこかで「飢餓海峡」を歌っているのだろうか?
わたしは恵子さん以上に上手く「飢餓海峡」を歌う人を見たことがない。

by adukot_u3 | 2013-07-03 10:26
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