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文子(あやこ)ちゃん
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文子ちゃんは、わたしの幼なじみ。
田舎の商店街で育ったので、海でも山でも近所の空き地でも、遊び場はいくらでもあったから、ほんとうによく遊んだ。
遊ぶばっかりじゃなく、図書館で一緒に本もよく読んだ。
うちの一族は、本を読む習慣のある人がひとりもいなかったので、わたしが本好きになったのは、たぶん文子ちゃんのおかげだ。

ある年の年末、レコード大賞最優秀新人賞に桜田淳子さんが選ばれて泣きながら歌っているのを見た家族が、
「アイドルはやっぱり泣いた方がかわいげあるね~」
「そうそう」
とうなずき合っていた。
わたしはべつにファンでもなかったので、そのときは何とも思わなかったが、翌朝、そのことを文子ちゃんに話したところ、
「うちの母ちゃんは、泣くなんておかしいて言うとったよ」
と言うのだ。
ビックリした。
周りにそんなことを言う人がいなかったからだ。
わたしは悩んだ。
泣くのがいいのか、泣かない方がいいのか…いったいどっちが正解なのか。
それ以来わたしは、常にアイドルという存在に対して、自分でも良くわからない、薄っすらとした疑問を抱きながら、フィンガー5のポスターをデカデカと部屋に貼るという矛盾を抱えることになった。

早い話が、文子ちゃんのところは公務員の堅実な家風で、ウチは日銭が入る享楽的な家風だったというだけの話だが、その違いのお陰でわたしは人の2倍考え、楽しめたと思っている。
そんな違いすぎるぐらい違う家で育ったわたしたちが、仲良しだったというのもまた不思議な話しだ。


20代前半のころだったろうか、年に一度の地元の祭りの日。
浅草で買った祭半纏を着て浮かれていたわたしは、ガラの悪いヤンキー女子数人に囲まれた。
目立つ格好がどうやら気に障ったらしい。
胸ぐらをつかまれてみぞおちに一発、ひざ蹴りをくらった。
いきなり顔に来ないところに喧嘩慣れした感じがする。
カチーンと来て「こんなことされて黙っちゃいられない」と単純なわたしが思った瞬間、
「ゆみちゃん、そんな人たちとレベルを同じにしたらダメ!」
という文子ちゃんの声が聞こえた。

その声にハッと我に返った。
危うく傷害罪で前科がつくところだったゼ、あちらが。
ひとりでヤンキー数人を相手になんでできるわけはない。
生来の向こうっ気の強さのせいで、ボコボコにされるところだった。
こうしてわたしは、文子ちゃんのおかげで警察のお世話になることもなく今日に至っている。

大人になってからは住んでいるところも遠く、年賀状のやりとりぐらいになってしまったが、そんな文子ちゃんはやはり、堅実な道を歩んでいる。
”日本一小さい薬局”というキャッチフレーズの『まるぶん薬局』をひとりで切り盛りしている管理薬剤師さんだ。

数年前に病気を患ったことを、後々、共通の友人から聞き、どうしたらいいものかと思いつつ薬局のホームページをのぞくと、丸坊主になったときの写真が、
「治療が終われば、また生えてきますので、治療をされる方は安心してください」
というコメントと共に掲載されていた。
それを見て安心するとともに、「文子ちゃんらしいな」と思った。


宇出津港一緒に遊んだ商店街は、今じゃすっかり寂れてしまったが、山があって海があって、話好きの商店街の人たちに囲まれて、今思うとほんとうに豊かな子供時代を過ごしたと思う。
当時のことを思うと、心にふかふかの芝生が敷き詰められたような気分になる。

かくれんぼとか缶蹴りとかもしたが、周りに男の子が多かったせいもあって、山に探検に行ったり、近所の倉庫に忍び込んだり、ガレージの屋根に上ったり…けっこう危険なこともよくした。
あんなこと、文子ちゃんとじゃないと出来なかったなぁと今さらながらしみじみ思う。
by adukot_u3 | 2012-08-03 12:14
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