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34年後の「ごめんね」
部活でペアを組んでいたふたりの、なんとも心あたたまるおはなし。

いつだったか夜中に電話で、中学の同級生Bと昔話をしていたら部活の話になった。
そこで、なにげなく疑問に思っていたことを聞いてみた。
「試合後の祝賀会で、なんであんなに不機嫌な顔をしてたのか?」と。
恥ずかしかったからとか言うんだろうと思っていたら、なんと「悔しくて祝賀会どころじゃなかった」と言うのだ。

わたしの母校である某中学は、ごく普通の田舎の中学だったが、ひとつだけ傑出しているところがある。
男女とも軟式庭球部、今で言うソフトテニス部が全国大会で優勝するほどの強豪で、それも毎年、勝って当たり前と言われるほどの常勝軍団だった。
当然、部員たちは朝早くから陽が沈むまでコートを走り回り、裏か表かわからないほど真っ黒だった。

電話相手のBはかつての、その強豪女子ソフトテニス部員。
そんな部員たちに対してわたしたち普通の生徒は、一目も二目も置いていた。
練習の量や厳しさは当然のこと、遊びたい盛りの中学生がちゃんと勉強もしつつ、強烈なプレッシャーの中で結果を出すという、その精神力はやはり尋常ではないからだ。

彼女が「悔しくて祝賀会どころじゃなかった」と言ったのは、中学三年の最後の試合、ブラスバンド部の演奏で出迎えられた駅前での祝賀会のときのことだ。
Bは「不機嫌」とまるで顔に書いてあるかのような表情でそこに立っていた。
その理由が「悔しかったから」とは、弱小バスケ部のわたしに想像できるはずはない。
そのときは男女とも優勝し、凱旋祝賀会と言ってもいいくらいだったのだから。

よくよく話しを聞くと、そのときは優勝したとは言え、1位になったのはBたちのペアではなく、同じチームの別のペアだったらしい。
しかも、その優勝したペアには今まで一度も負けたことがなかったのだそうだ。
それなのに、トーナメント形式の試合で、直接対戦したわけではないものの結局は負けてしまったのだ、よりによって現役最後の試合で・・・。

B曰く「優勝以外は負けと同じ」なのだそうだ。
部外者であるわたしにとっては、誰が1位であろうが、うちの中学が優勝することに変わりはないが、当事者間では熾烈な戦いがあったのだな。
「2位じゃダメなんですか?」の蓮舫大臣も真っ青の、その根性の入りように改めて驚くとともに、不機嫌な理由がやっとわかった。

ソフトテニス部のOB・OGのほとんどが進学する高校の、総体での成績がここにある。
この成績を残した部員のほとんどが、うちの中学の出身だ。
改めて眺めると、なかでもわたしが在学していた時代がいかに強かったかがわかる。
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Bは飲むとよく部活の話をした。
話の細かい内容はともかく、それらを聞くにつけ、彼女にとって部活での経験がいかに大きなウェイトを占め、いかに彼女がそのことを大事に思っているかがよくわかった。

34年後の「ごめんね」_f0046622_1245731.jpg今年の祭りの前、そんなBとペアを組んでいた相方のMから久々に、「祭りに来たらウチに寄ってって」とメールが来たらしい。
一人で行くのが照れくさいのか何なのか知らないが、Bはわたしに一緒に行こうと言うのだ。
Mと話すのも久々だし、ふたりの話に興味もあったのでついて行った。

久々に対面した彼女たちは、学生時代の話で盛り上がった。
そのうちやはり部活の話になり、件の最後の試合の話になった。
試合当日にMが体調を崩して、なんと試合時間まで遅らせてもらったこと、そして、それにもかかわらず負けてしまったこと、などなど・・・。

それまでほとんど負けたことがなく、最後に優勝旗を持つのは自分だと当然に思っていたMは、試合後の表彰式で「どうしてわたしは旗を持っていないんだろう」と呆然としたと言う。
優勝旗を当然と思っていたことについては、その常勝ぶりを直に見ているわたしとしては、それほどビックリはしなかったが、初めて聞いた日焼けの話にはビックリした。

当時、彼女たちは、テニスウェアとスコートを着けて練習していた。
普通の日焼けなら、当然テニスウェアとスコートの跡がつくはずだ。
ところが、そこにもうひとつ、ビキニのようなアトがついていたそうだ。
そう、テニスウェアを素通りして、下着の日焼け跡がつくほど長時間、炎天下の中で練習していたということだ。
当時、普通に一緒に勉強したり遊んだりしていた彼女たちが、そんな練習をしていたとは・・・さすがに言葉を失った。

最後にMは「あの試合で負けたのは、私のせいだった」ハッキリとそう言った。
その瞬間わたしは全身鳥肌が立って、うるうるしてきた。
あの練習をした二人にしかわからないことがあるんだな、そんなところに同席したわたしは少々お邪魔だったのかも知れないが、やはり連れて来てもらってよかったと思った。

そうこうしているうちに、気がつくと祭りはとっくに終わり、空はすっかり明るくなっていた。
脇で来客の接待をしておられたご主人とMに見送られて、わたしたちはあたふたとM宅を後にした。

翌朝、MからBにメールが来たそうだ。
『せっかく会ったのに、わたしは昨日もきちんと謝ってなかったね。
34年間ずっと言いたかったけど言えなかった。
わたしのせいで大事な試合負けちゃってごめんね』と。
その後Bは「もうなんとも思ってないから言ったんだよ」と電話をし、ふたりは34年ぶりに、やっと心の荷物を降ろせたらしい。

くぅーーーっ、泣かせるゼ(T_T)
34年・・・年をとるのも悪くないと思える、いいものを見せてもらった。
by adukot_u3 | 2012-07-14 21:55 | 日々雑感
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