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楳図かずお『漂流教室』
漂流教室の写真楳図かずお。
「まことちゃん」に代表されるギャグものや、不気味なホラーもので有名な漫画家だが、世間一般の人たちは、この人がそんなのばっかり描いてると思ってるんじゃないだろうか?…って一番そう思っていたのは実はわたし。ほとんど漫画読まないから。でもある人にこの作品を薦められて読んでから、楳図かずおという人の印象がガラリと変わった。

舞台は、環境の汚染によって廃都となった近未来の東京。
ごく普通に生活していた大和小学校の児童たちが、校舎ごとそこにタイムスリップするというところから物語は始まる。気づくと一瞬にして小学校の周りは荒涼とした砂嵐。いったい何が起こったのかはわからない。でも、行けども行けども果てしなく続く暗い砂漠の真ん中に、全校生徒と教師だけが取り残されたことだけは事実なのだ。

受入れ難い状況に、まず大人たちが発狂し、子供達も逃げ場のない不安と動揺から、小競り合いやケンカが絶えなくなり、やがてそれは略奪、殺し合いと極限状態にまで追い込まれて行く。その様子は、純真な子供なだけに冷酷さに満ちて凄まじい。追い込まれた人間とはこうまでになるものかと目を背けたくなる場面の連続だ。
ただし、そんな中にあっても、命を賭けて守ろうとする友情や、時空を超える親子の情愛があったりもして、わたしは、人間というものに絶望する一歩手前でかろうじて踏みとどまることができた。

しかし、むき出しの本能とわずかな理性との狭間で揺れながら争いを繰り返していた子供たちは、あるとき、このままでは自分たちに未来というものはない。あるとすれば、自分たちが今ここから作り始めるしかないことを悟る。それまで単なる読み物として見ていたわたしは、ここでぞわぞわ~と鳥肌が立って愕然とした。こ、これは現代の人類の姿じゃないだろうか…。
一気に動悸が激しくなった。そうだ、黙っていても未来は来るものだと漠然と思っていたが、それは大きな間違いだった。未来は作るものだったのだ。

わたしたちが、このままの日常を続けて行くことは、子供たちが体験した惨劇を、そのまま人類の近未来とすることになりはしまいか。これは、単なるフィクションなんかじゃない。わたしたちの未来を映したシミュレーションだったのだ。

この作品は1972年から74年、日本列島改造論で浮かれ、石油ショックや公害病で揺れる世相を背景に連載されている。かつてレイチェルカーソンさんや、有吉佐和子さんが、地球環境の危機的状況を憂えて警告を発したのと同じように彼は、その澄んだ瞳の奥から取り出したナイフをわたしたちの喉元に突きつけたのだ。
「悔い改めよと」。

それからはや三十年以上が経った。
人類は今なお争いを繰り返し、京都では議定書がひらひらと宙を舞っている。
漂流はもうすでに始まっている。
by adukot_u3 | 2006-04-11 06:00 | 書籍
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