『金子由香利リサイタルVol.30』

f0046622_3593874.jpg 『金子由香利リサイタルVol.30』に行ってきた。金子さんは、わたしの一番好きなシャンソン歌手だ。
今回のツアーは悲しいことに一旦ここでピリオドが打たれる。そう、ファイナルコンサートなのだ。

 Vol.30ということもあり、聴衆は60代以上がほとんど。
全盛期の金子さんをよく知らないわたしは、このリサイタルの聴衆の中に入ると、このトシにしてなんとけっこう若手だったりする。

 シャンソン歌手のリサイタルと言うと、だいたいちょっと派手で恥ずかしいような衣装が多いが、金子さんの場合はいたってシンプルだ。
舞台は真っ黒で、バンドさんの衣装も上下黒。金子さん自身も必ず黒のドレスと決まっている。
マイクもワイヤレスじゃなくて、コードのついたもの。
わたしたちにはわからない微妙な音へのこだわりが、金子さんにはあるのだろう。

バンドさんの顔すら見えないほど抑えた照明、ステージ上でもそれほど動くことなく、派手なパフォーマンスもちろんない。ご本人によるMCと歌、ただただそれに集中!なのだ。
この清清しさすら感じる潔いステージングがステキだ。

 そう言うと、地味過ぎてあんまり面白くなさそうに思うかも知れないが、この方、意外に話も面白い。
歌のストーリーの説明ついでにチラッと織り込む自虐ネタっぽい話が、けっこう笑えるのだ。非常に非常に非常に上品な「綾小路きみまろ」みたいな感じ。
舞台と客席との間には、「ある時代を共有した」という阿吽の一体感のようなものがあり、その雰囲気がなんとも温かい。

 金子さんは、元々は新劇の女優さんだったそうだ。
演出家だったご主人を若くして亡くしてしまい、「自殺してしまうんじゃないか?」と心配した友達が交代で泊まりに行ったという逸話を、なにかで読んだことがある。

f0046622_40566.jpg 元女優さんだからだろうか?
語るように歌う金子さんの歌は、まるで映画のワンシーンを演じているかのようだ。
さすがに年齢なりの声の衰えは否めないが、相変わらず品があって美しい。
穏やかな人柄と長年のキャリアに裏打ちされた自信、そしてシャンソンを心の底から愛してやまないことが歌の端々から伝わってくる。

 チラッと横目で見ると、隣の恰幅のいい紳士が、こっそり眼鏡の下から涙をふいていた。
この人も、人生のおりおりで金子さんの歌を聴きながら、30年を過ごして来たのだろうなと思うと、わたしまでウルウルしてしまった。

 「30年間、シャンソンをたくさんの人に好きになってもらおうと、日本中あらゆるところで歌って来ました。その思いが少しは伝わったのでしょうか?こうしてわたくしの歌を聴くために足を運んでくださるみなさんがいらっしゃること、それがわたくしの勲章です」
そう挨拶され、金子さんは30年というツアーに一旦区切りをつけられた。
その晴れやかな笑顔を見て、チラシの写真より少しお年を召されてはいるが、今の方が断然ステキだと思った。
わたしもできることなら、こういうふうに年を重ねたい。
珍しくそんなことを考えた夜だった。
外に出てふと見上げた空には、いつもと違う顔の東京タワーが立っていた。

最後に歌った『おお我が人生 O! toi la vie(オ・トワ・ラヴィ)』の歌詞は『雨の朝も、嵐の夜も、小さな夢と青く晴れた空を想い耐えて行こう、それが人生、ラヴィ、ラヴィ』というもの。無責任に夢を持たせたり、闇雲に元気を押し売りしたりしないのに、元気が出る。わたしの一番好きな曲だ。

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by adukot_u3 | 2009-09-06 09:40 | 演劇・演芸

歌好き地図好き散歩好き。モットーは『自分で調べて自分で考えて、なるべく自分の事は自分でやる』。さそり座、黒ひょう、AB型女。


by maccheroni
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