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映画『リミット』
リミット
『リミット』という映画を観た。
登場人物は男がひとり。舞台は棺桶ぐらいの大きさの木箱の中。ただそれだけ。
それ以外は誰も出て来ないし、木箱の外も一切映らない。はたしてそれだけで95分をどうやって持たすのか・・・。
結果は大満足!!よくもまぁそれだけであそこまでドラマを作り上げられたもんだと感心した。

(以下、途中まではデタばれだが、結末は言ってない)
男が目覚めると、そこは暗闇。
所持品は携帯電話とペンとZIPPOのライター、少量の酒。
ライターでかろうじて灯りを得た男は、自分が木箱の中に閉じ込められていること、そして外部との唯一の接触機器である携帯にかかって来た電話で、単に閉じ込められただけじゃなく、テロリストに誘拐されたことを知る。

観る側も、一切の情報を与えられてないから、この男や相手が喋る一言一句に聴き入り、一言喋るたびにあれこれと考えを巡らせつつ、「なるほどそういうことだったのか・・・」となるから結構必死。
意外と忙しくて退屈してるヒマはない。

実際に映像に映るのは男ひとりだけど、なんとか救出してもらうために、あらゆるところにコンタクトを試みるので、携帯を介して、かなりいろんな人が登場する。
テロリストからの連絡はモチロンのこと、奥さん、子供、会社の人事やトラブル係の人、同僚、国の機関の人や、ネゴシエーター、FBI、軍の関係の人、電話会社の番号案内の人、GPSとかやる人などなど。
それらの人とのやりとりで、この男がイラク戦争の補給物資を運ぶために派遣されて来た民間人であること、そこで襲撃され気を失ってるうちに砂漠のどこかに木箱に入れて埋められたこと、テロリストは巨額の身代金を請求しているが、アメリカ政府がそれを渋っていることがだんだんと解ってくる。

しかも電話先のそのどれもがことごとく留守電で、たまにつながっても「担当者に回します」でお馴染みのたらい回し。それだけならまだしも、「そちらは別の部署になります。お電話番号は…」なんて言われた日にゃ、なんでもない時ですら頭に血が上るのに、命がかかってる上に、、真っ暗な棺桶の中でそう言われたら、誰だって携帯投げたくなるに違いない。でもそれは絶対に出来ない。外界との唯一の交信手段なんだから。
それだけじゃない。木箱の隙間からは砂時計のように常に少しづつ砂が落ちて来ている。そんな、時限爆弾を抱えたような中で、事態はどんどん展開して行く。あぁ心臓に悪い。

箱の節穴からはナント、蛇が侵入して来たりなんていう古典的なものから、携帯に男の浮気相手の食堂のウエイトレスが傷めつけられてる映像が送られて来たり、テロリストからは「アメリカ政府に身代金を出してくれるよう自分で携帯動画を撮ってそれをYouTubeにアップして世間にアピールしろ」なんて言われたり、そんなの言われてすぐできる人いったいどんだけいるよ?的な難易度の高いハイテクネタまで、硬軟織り交ぜたバリエーションがとにかくすごい。

その合間にアメリカ政府やFBIやいろんなところから電話が来たり、相変わらず留守な奥さんや同僚のところに電話したり。あーそんなことしてたら電池がぁぁぁ・・・・・・
ただ座って観てるだけなのに、こっちもけっこう疲れるのだ。

結末を言っちゃうと面白くないので伏せるが、これは単なる脱出劇ではない。砂の中に置き去りにされそうな、「葦のずいから天井のぞく」末端のいちアメリカ人を通して、アメリカという国とその国民との関係が嫌でもありありと浮かびあがってくるのだ。
そういえば、先日観たアメリカのドキュメンタリー『MAXED OUT』の破産できない債務者も、この木箱の中の男と立ち位置が似ている。もっと大きくは、アメリカに対する日本・・・。

生物界の食物連鎖の図では、人間が消費者としてピラミッドの一番上に君臨しているけど、その人間も生物だ。実際に喰ったり喰われたりはしない代わりに、経済という食物連鎖の中で生きている。
そこでは実際に殺されはしないけど、連鎖から外れると高い確率で死ぬしくみになっている。
わたしのように、脱出劇だと思ってお気楽に観に行くと、そういう超シュールな現実を突きつけられて、呆然とするかも知れないので要注意。

製作費用はナント2.5億。何百億もかけて凄惨な戦場のシーンを撮る反戦映画より、よっぽど心にズシンと来る映画だ。

個人的には、テロとか国家とか難しいことは関係なく、もはや箱に入った時点でアウト!
閉所恐怖症だから。
by adukot_u3 | 2011-06-16 18:10 | 映画
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