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地産地消文化情報誌『能登』
地産地消文化情報誌『能登』_f0046622_210348.jpg地元発の『能登』という季刊紙ができた。というかできていた。
いままで、旅の特集号などの一過性のものには結構載ることはあったものの、季刊とは言え能登だけをターゲットにした本が定期的に出るなんてことは、わたしの記憶の中ではたぶん初めてじゃないかと思う。

今季は時節柄「能登の祭り」をテーマにしていて、特集は「能登のキリコ祭りを重要無形民俗文化財に」というもの。
読んでみると、勇壮な祭りあり、優美な祭りあり、地元出身のわたしも知らないたくさんの祭りがとりあげられていて、とても興味深い。それぞれの地区の祭りを眺めたり、いわれを読んだりしているうちに、コレ、重要無形民俗文化財にしてもぜんぜんおかしくないんじゃん!そう思えてきた。いや、ひいき目じゃなくほんとに。

能登の祭りは地区によって多少の違いはあるものの、「キリコ」という独特な山車の内側に明かりを灯した、あんどんのような形をしている。どうやら京都で流行した風流灯籠というものが、能登では「キリコ」、秋田では「竿灯」、青森では「ねぶた」と伝播したものらしい。
今は裏日本などと言われ、寂れて久しいが、能登にはキリコだけじゃなく、食文化や気質、気風の中に、どう考えてもただの田舎の半島の突端のものじゃないだろうと思うものがよくある。風流灯籠が「キリコ」になったように、やはり北前船での交易が盛んだったころの名残が端々に残っているのだろう。

地産地消文化情報誌『能登』_f0046622_17483221.jpg明治の末、町に電線が張られたせいで、キリコが小型化してしまった地区がある。別の地区では、大きなキリコに配慮し、地下配線によって、今でも昔の大きさを保っている。その小さくなったキリコが、能登町宇出津の「あばれ祭り」で、その後、機動性を増した躯体は、白木に華美な装飾を一切施さず、更にあばれぶりに拍車がかかって行くこととなった。

一方、昔のままの雄大な姿を留めているのが、表紙にもなっている七尾市石崎の「石崎奉燈祭り」だ。白木とは対照的に、こちらは総うるし塗りで金箔使い、武者絵が描かれていたりと、優美かつ豪華。
今まで何も考えずにただボーっと祭りを眺めて来たが、電線の引き方ひとつでキリコの命運が分かれるとは、祭りにも意外と大人の事情があるんだな。今の原発問題ともあいまって、なんとも皮肉なエピソードだ。

しかし、そういう歴史の曲がり角と上手に折り合いをつけて来ないと、何百年もこういう祭りは続けられないだろう。
能登には、ほんの数キロしか離れていなくても、その地区ごとに風俗を反映した独自の祭り文化がある。そしてそれは、その地区の人たちだけのものではなく、旅人だろうが外国人だろうが、一見さんでも誰でも受け入れる。そんな寛容さもちゃんと持ち合わせている。それもまた、交易が盛んだった頃の名残りだろうか…。
そんなことをあらためて考えると、あぁわたしはなんて素敵なところに生まれ育ったんだろうと、今まで考えたこともないような、こっ恥ずかしいことを思ったりする。

今は線路も外され、通過する人もいなくなって、文字通り陸の孤島状態。最近は友達との話題も「地元をどう活性化するか?」だったりするのに、こういう雑誌が出たり、「能登の里海里山」が世界農業遺産に登録されたりすると、嬉しい反面、なんだか不思議な感じがする。
3周遅れでトラックを走っていたら、前の人たちが熱中症でバタバタと倒れて、知らないうちに繰り上げで予選通過。そんな感じだ。
by adukot_u3 | 2011-08-17 21:00 | 書籍
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