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10歳の逡巡
救命胴衣なし立ち泳ぎ6時間、転落の船長救助。
この時期で高知県沖というのが幸いした。船長も49歳とまだまだ若い。
救助されてほんとうに良かった。

 わたしが10歳のときだった。
時期はいつごろだったか忘れたが、隣のおじさんが操業中の船から転落した。
近海と違って遠洋漁業の場合、場所が場所だけに助からないことも多い。
その後、救助の知らせは一向に来ず、3日目の夜、ほとんど絶望的と思われた。
同じく漁師の女房である近所のおばちゃん連中はみんな、いても立ってもいられず、隣の家に集まって、奥さんと子供たちをを励ましていた。

 ウチの母も当然隣に行っていて、わたしはそのとき家で一人でぼんやりとテレビを見ていた。
そのとき突然画面の端っこに、
「行方不明中だった○○○○さん、無事救助」
という文字が出た。

 ビッッックリした。
とりあえず、一応隣に知らせに行かなきゃと思った。
一応、と思ったのは、隣でも当然それを見ていると思ったからだ。



 勝手口からそーっと入ると、なぜか空気がどんよーりと暗かった。
もう涙も枯れて、この世の終わりのような顔をしている。
あれっ?なんでみんなこんな暗いの?
あのニュース見てないの?
こんなにずっとNHKのニュースにかじりついているのに、知らないわけはないし・・・。

 そう思うと、さっきわたしが見たのは見間違えか、もしかしたら幻だったような気がしてきた。
今わたしが
「救助されたってニュースで言ってたよ」
とひとこと言えば、この重苦しい空気は一変する。
でも、テロップを見たのは一瞬だったし・・・。
だんだんと自信がなくなってきて、わたしはとうとう言えなかった。

 そのうち近所の人が
「助かったってよーーー」
と泣きながら知らせにきた。
ドッと泣き崩れるおばちゃんたちに、ホッとしてわたしも涙が出てきた。

 あとで母に、
「わたしも、ほんとはそれを知らせようと思って来たんだけど・・・」
と言うと、
「バカだねぇ~」
言われた。

おじさんはそれから1週間ほどで帰ってきた。
流木につかまって漂流していたのだという。
by adukot_u3 | 2009-09-26 19:25 | 日々雑感
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