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帰省先にて
帰省先にて_f0046622_0303395.jpg父の新盆なので、田舎に行ってきた。
実家に行くと言うとたいてい「のんびりできていいね」と言われるが、わたしの場合、5秒以上黙っていると死んでしまうだろう母と、気の張る父方の親戚たちに囲まれ、ただただ疲れるばかりなのだ。
それ以前に、もはや疲れていて少し休みたかったのに、行くのをやめようかとぐずぐずしているうちに言い出す機会を失ってしまい、結局行くハメになってしまったのだ。

気乗りしない帰省でも、とりあえずの気分転換にはなる。
しかし、だいたいどうでもいい近所の噂話に相槌をうつのに疲れ、人と喋るのすら面倒くさくなってしまうのがいつものパターンだ。
「銀行行ってくる~」と用もないのにチャリンコで外に出た。

暑い!
連日の炎天続きで、バカみたいに暑い。
日中、用もなくふらふら出歩いているのはわたしぐらいだ。
それも、買って30年近くにもなろうかというママチャリで。
久々に町のあちこちを眺めてみて思った。
ずいぶんとさびれたなぁ。



わたしが子供のころは、春先になると港は大型漁船で一杯だった。出航の日には、大漁旗を立てた船団が、湾をひとめぐりふた巡りしてから外海へとくり出していく。
その間、迷惑なことに、都はるみの『好きになった人』が、ずーっとかかりっぱなしなのだ。わたしがこの歌を、イントロからソラで歌えるのはそのせいだ。

その日から約一年間、お父さんと会えなくなる家族は、涙や鼻水でドロドロになりながら、今では見かけなくなった紙テープを手に持ち、その端をマストにくくりつけてもらって、その思いを船上で手を振るお父さんに届けようとする。
そんな雰囲気のなか、こないだ家族になったばっかりのウチは、マストにつながった紙テープを、ぼんやりと眺めていたっけ。結局何年経ってもドロドロになることはなかったけれど・・・。
もう、そんな大きな船が来ることもなくなってしまった港は、やたらに空だけが、がらーんと広かった。

ふと昔の遊郭跡はどうなってるだろうと行ってみた。
この袋小路はかつて、ずらーっと格子がつづいていて、なかなか風情があったが、今ではつきあたりの建物にその面影が残っているぐらいか?(たしか、サンショウロウ「三祥楼?」とかいう名前だった。隣はカセンロウ「花泉楼?」だった)
当然、わたしが物心ついた頃はもう遊郭はなかったが、それでもなんとなく気やすく近づいてはいけないことは、子供でもわかるような雰囲気だった。

帰省先にて_f0046622_0305741.jpg一回だけこの近くで迷子になったことがある。
だんだん暗くなってきて、どこかのスナックの店先で泣いていると、髪を金髪に染めた女の人が出てきて、わたしを家まで送りとどけてくれた。
お世辞にも品があるとは言いがたい人だったが、なかなか人に懐かないわたしが、保育園で習った歌を歌いながら、その人と手をつないで家に帰ったときの、じいちゃんのびっくりした顔は今も忘れない。
今でも、場末のスナックのママとかが嫌いではないのは、ここから来てるのかも?

ばあちゃんの話によると、昔は遊郭のほかに、賭場や劇場があったり、映画の撮影や大相撲の地方巡業が来たりもしたらしい。
わたしが物心ついたころでも、見世物小屋がきたり、演歌歌手が狭い小学校の講堂にしょっちゅう来ていた。
わたしはそれを、ただ漁業で儲かったからだと思っていたが、
網野善彦氏の『続・日本の歴史をよみなおす』という本のなかで、江戸時代、日本海の回船交易の拠点として栄えていたと書かれていたのを読んで、膝を打った。
これだ!わたしがずーっと感じてきた違和感はっ!

とかくこの町の人々は、妙に気位が高い。
こんなド田舎で、なんでこんなに的っ外れに高飛車なんだろう?というのがわたしの長年の疑問だったのだ。
その原因が、回船交易にあるというのも乱暴な話だが、あながち間違ってもいないような気がして仕方がない。
なんせ、わたしがルールブックだと言わんばかりに意味なく自信満々なのだ。特にオバチャン達が。
町はもう、没落した成金のようなのに、オバチャンのパワーだけは相変わらずだ。それがある意味愛しくもあるのだが、ここまでさびれた町とのちぐはぐさは滑稽ですらある。
オバチャンと言っても、わたしの母親世代で、もう立派なおばあちゃん世代なのだから、このパワーもあと少しの命だ。
町のさびれ具合とあいまって、そのあたりで一気にパワーダウンしてしまわないかと、わたしはいま、密かに案じている。

高台にある墓から見下ろした港は、昔と変わらず青いままなのになぁ。
帰省先にて_f0046622_0311161.jpg
by adukot_u3 | 2007-08-24 00:31 | 能登半島
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