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ドキュメンタリー『ミツバチの羽音と地球の回転』

ミツバチの羽音と地球の回転』という映画を観た。
不思議なタイトルに何となく惹かれたのと、監督が『六ヶ所村ラプソディー』という原発のドキュメンタリーで話題になった鎌仲ひとみさんだったこと、おまけに終映後には、人類学者・宗教学者の中沢新一氏とのトークショーがあるというのも興味深かった。

舞台は、瀬戸内海の祝島(いわいしま)
かつて、国策によってみかんへの転作を強要され、オレンジの輸入によって廃業に追い込まれた。その後、中国電力が原発の建設計画を発表。住民による反対運動は、なんともう28年も続いている。

住民「子供達のために、この島の自然を残したい」
中電「原発での確実な雇用の方が次世代のためになる」
自然に影響はないと言いつつ、補償金としていきなり5億数千万円を島の口座に振込んで来る中国電力側。
「影響がないなら、なんでそんなもん振込んで来るんじゃぁ」と、それを振込み返す住民たち。

彼らは、反対運動によって原発工事を中止にできるとは思っていない。
反対運動で工事が遅れる→工事の認可期間が切れる→再度認可申請→許可待ち
この繰り返しによって時間稼ぎをする。そうしているうちに、世の中の意識が変わるのを待っているのだ。

これを解決しようとすると、そもそも原発ってどうなの?というところに行き着く。
その疑問を解消すべく、カメラは環境先進国であるスウェーデンへと飛ぶ。
話には聞いていたが、やはりスウェーデンはすごい。
国民投票で脱原発を決めたこの国では、2020年までに石油にも依存しない自然エネルギーによる循環型社会を作るために、着々と準備を進めている。

風力、波力、太陽など、自然エネルギーを総動員して発電し、廃材も使ってさらに発電。蓄電による温水暖房、街には電気自動車・・・。それらは試験的にではなく、普通に生活に使われている。
牧場のような大きな施設でも同じ。エサやりや掃除は自動。搾乳は、胸が張ってきたな~と牛が思ったら、自分でバーを押して自動搾乳機のところまで歩いて行ってするしくみになっている。し尿はリサイクルされて畑の堆肥に。できた作物は家畜のエサに・・・こうしてぐるぐる回っている。

一番びっくりしたのは、電力そのものがインターネットのように市場で流通していること。原発から作った電力と、自然エネルギーから作った電力のどちらを選ぶかは、使う側次第なのだ。
いくらスウェーデンとはいえ、これは自然にそうなったわけではなく、「電力会社は全発電量の○%以上は自然エネルギーにするように」と法律で決められていて、それに満たない場合は厳しいペナルティーが科せられる。
そうやって、原発による電力が淘汰されていく「しくみ」が作られているのだ。

日本にもRPS法という似たような法律があるにはあるが、例によって努力目標で、ペナルティも微々たるもの。わたしたち末端がいくらエコエコ言ってても、進まないのはこういうことなのか。

先日、元首相の鳩山由紀夫氏が「普天間の米軍には抑止力があるから県外には移せないと言ったが、あれば方便だった」とポロッと言ってしまって叩かれていたが、じゃぁ抑止力のない他国の軍隊をわざわざ置いておく理由はナンなのか?
その説明もないまま、相変わらず米軍はいるし、鳩山氏も国会議員に留まっている。記者も肝心なところには踏み込まず、「方便」と言った言わないの枝葉のところで大騒ぎ。

こういう、未だプロセスをブラックボックスに入れたまま入口と出口だけしか見せない日本式のやり方はほんとに田舎っぺ。でも、これが現実。地方議員が全てボランティアの国と、小選挙区制を採用している国との違いなのか。
スウェーデンがやっていることが全て正しいわけでもないだろうし、そのまま日本に持って来ても合わないこともあるだろうが、こと情報の透明性の高さと、将来のエネルギーについてのビジョンがはっきりと示されているという点においては、日本の遥か先を行ってる国なんだなぁとしみじみ思う。

程度の差はあれ、基本的には世界は原発縮小の方向へ向かっているが、なぜか日本は今後CO2削減のために、さらに十数基の原発建設を予定している。CO2は削減できるのかも知れないが、別の危険を抱え込むことにはならないのか?

そんな日本にも光明はある。
ノーベル賞の根岸英一教授は「CO2を出さないのではなく、出したCO2を利用するよう発想を転換するべきだ」と、人工的光合成のプロジェクトを立ち上げた。

米国電気・電子学会(IEEE)に名前を冠したメダルを持ち、「ミスター半導体」とも呼ばれている西澤潤一教授は、「半導体の技術によって、今までより送電効率が50倍良くなる。実質の電気量も増えるし、地球規模の送電が可能になるので、わざわざあちこちに発電所を造る必要はなくなる」と言っている。
スウェーデンの人たちが、「日本は技術もあるし、スウェーデンより自然エネルギーも豊富なのにどうしてやらないの?」と不思議そうに言うのも当然だ。ちなみに風力発電の風車は建てるのに2日、1回転するごとに50円を稼ぎ出す。

日本には根岸教授や西澤教授みたいなすごい秘密兵器があるのに、相変わらず原発を増設し続けるのはやはり納得行かない。とっとと研究して、その技術を世界中に売れば、じゃんじゃん儲かって借金も返済、年金だってバンバン払えるのに・・・と思ったら、ミスター半導体曰く「研究予算が少なくてなかなか進まない」らしい。まさか・・・仕分けされたか?

中沢氏はトークショーの中で、「世界を覆い尽くしている経済というたった一つの思考法と向かいあい、祝島型のモジュールを結び合わせていくことしか、人類の命運を変えられない」と言っていた。

そのたった一つの思考法と向き合うためにも、原発推進派の人たちの意見を聞いてみたかったが、映画にはあまり描かれてなかったのが残念だった。トークショーのゲストに中国電力の人とか来たら面白いのに・・・。

原発で利益を得る側の人であっても、人間なんだから汚染の害は被るはず。なのにそれを押して原発を推進する理由とはなにか?ぜひ聞いてみたい。できれば、「え~っ、そうだったの?それじゃ原発もアリかも」と思うぐらいのやりとりが見たい。

※注意
土日は監督と各界の識者とのトークショーがありますが、入場は整理券順です。
整理券のことは、映画の公式サイトにチラッと書いてあるだけで、ロビーには何も書いてありません。
着いたら何はさておき、まずカウンターで整理券をもらいましょう。

でないとわたしのように、早く着いたにもかかわらず立ち見だと言われてムッとしてしまいます。ま、なんとか根性で座りましたけど。

・・・と書いた数日後に地震が起こった。
なにかしら因縁めいたものを感じる。


by adukot_u3 | 2011-03-02 00:29 | 映画
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